にゃーっていう奴が居たんだよね

  1月半ばくらい。初めて乗る電車に乗っていた。スピッツiPodからずっと愛だとかセックスだとか生だとか死だとか歌ってた。雪ひどくなってくのをどこか他人事みたいな気分で見てた気がする。ケータイは真っ二つ案外軽く折れるんだって学んだ。

  東尋坊最寄駅、中学生ぐらいの子が結構利用するんやなとよくわからん感想をもった。バスに乗った頃には辺りは暗くなって、目的地に向かうにつれ、もともと少ない乗客もひとりふたりと姿を消していく。知らない景色。当たり前か。目的地。降ります。結局俺が最後の乗客だった。
  バス停近くのでかい案内板にしたがって遊歩道を進んでいく。案外観光地やね。場違いな感想だけが頭に浮かんだ。道路から離れると街灯はない。月明かりとそれを反射する雪の明るさを頼りに道を進む。雪強くなってきたなあ。帰りの心配をするわけでもなく独り言を言ってみる。全然声出ねえってそりゃそうか。
  着きました。波が岸壁にぶつかって泡になってる。吹雪始めたな。うまいことドーンと行かないと悲惨だなあ。うーん。まあ良いか。踏み出す。
  そこで足にぶつかってくる毛むくじゃらのそいつに気付いた。ちょうど進行方向にいて邪魔してくるそいつはとても人懐っこかった。雪が体にかかって寒いだろうと傘差してあげた。逃げねえ。触ってればそのうち逃げるだろうと思ってたのに全然どっか行きやしねえ。
  1時間くらいかなもっと短かったかもしれんが、なにを考えるでもなしそいつと一緒にいた。そんな時そいつがにゃーって鳴いたんよ。波の音しか聞こえないとこだからすげー響いてさ。なんかどうでもよくなっちゃたなぁって思った。そいつもそんな俺の様子が分かったのか、今までダラダラしてたのに歩き出してさ、しゃあなしついていこうかって後ついて行ったら帰り道だったんだよね。あーそういうねって思って、まあここはありがとうの一つでも言ってやるかってそいつの方見たら居なくなってた。
  帰りは、シャッターの閉まった観光案内所みたいなとこのバス停からギリギリ最終バスに滑り込み、最後の最後の電車に乗って帰った。その足で友達に会いたくなって夜中だったけど会いに行ってさ。いつもと同じようにただ遊んだんだよね。
 
にゃーって鳴かれてから帰ってきたよ。正解かどうかはわからんけれども。